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翳り
「翳り〜」の文章内での使われ方:小説や文学作品の中から探す
翳りの前後の文節・文章を表示しています。該当する15件の作品を表示しています。
検索対象[仮名遣い:新字新仮名]
「冬の蠅」より 著者:梶井基次郎
棄てない。壜のなかのやつも永久に登っては落ち、登っては落ちている。 やがて日が
翳りはじめる。高い椎の樹へ隠れるのである。直射光線が気疎《けうと》い回折光線にう....
「美しき死の岸に」より 著者:原民喜
いね」 それは彼にとって淡い慰めの言葉ではなかった。と妻の眼には吻と安心らしい
翳りが拡《ひろが》った。 「お母さんもそれと同じことを云っていました」 今、家....
「旅愁」より 著者:横光利一
なになるなんて、――」
一言いいそこなうと、こちらのなごやかさとは反対に、忽ち
翳りの来るものが、争われずまだあったのだと矢代は思い残念だった。
「僕は東京へ着....
「文学の流れ」より 著者:宮本百合子
ている。常に苦痛と希望とを綯《な》いまぜて、人間の意志を照りかえしながら輝きつつ
翳りつつ推移してゆく。現実の辛酸が我々を打ちのめしもするが又賢くもする通り、歴史....
「死者の書」より 著者:折口信夫
日よりなのに、其を見ていると、どこか、薄ら寒く感じるほどである。時々に過ぎる雲の
翳りもなく、晴れきった空だ。高原を拓いて、間引いた疎らな木原の上には、もう沢山の....
「夜長姫と耳男」より 著者:坂口安吾
い。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮もなければ、何かを企む
翳りもない。童女そのものの笑顔であった。 オレはこう思った。問題は、エナコが巧....
「絶景万国博覧会」より 著者:小栗虫太郎
。その所以でもあろうか。午後になって陽の向きが変って来ると、室の四隅からは、はや
翳りが始まって来る。鴨居が沈み、床桂に異様な底光りが加わって来て、それが、様々な....
「空家の冒険」より 著者:ドイルアーサー・コナン
窓を見止めた。ここでホームズは右に曲り、我々は四角な大きな室に来た。角々は暗黒に
翳り、ただ中央だけが往来からの余光でかすかに明るい。近くにはランプも無く、また窓....
「だいこん」より 著者:久生十蘭
てシゴイさんの腿のところへすばやく注射した。 シゴイさんの額のあたりが急に暗く
翳り、その色がカーテンでもおろすように顎のほうへすうっとさがってくると、端然とし....
「肌色の月」より 著者:久生十蘭
顔には、生活の悪さからくる陰鬱な調子がついていたが、写真の顔はどこといって一点、
翳りのない明るい福々とした顔をしている。額の禿げかたもちがう。プリムスのひとの額....
「なよたけ」より 著者:加藤道夫
に 囀り鳴けよ 君がため……… とたんに小鳥の囀り止む。陽が輝き始める。また陽が
翳り、小鳥が鳴き出す。また小鳥の鳴声止み、陽が輝き始める。……… これが次第に烈....
「植物一日一題」より 著者:牧野富太郎
、その実を目に入れるとたちまちその実から粘質物を出して目の中の埃を包み出し、目の
翳りを医するからである。つまり目の掃除をするのである。 製紙用ガンピ二種 雁皮....
「宮本武蔵」より 著者:吉川英治
い指先は、燈芯の火とともにおののいている。
心なしか、こよいは、灯も鮮やかに、
翳りなく点って、なんとなく胸も花やぐようなと、灯占をたてていたが――
花田橋で....
「私本太平記」より 著者:吉川英治
わばその代表的な者だったといってよい。 簾をたれ籠めた水鳥亭の欄にいつか夕陽が
翳り出す。 この日の“文談会”は、ほとんど日野俊基の木曾、北陸、東国にわたる旅....
「私本太平記」より 著者:吉川英治
ずにいた藤房すらも――もぎ離されて、他家に監禁される始末――。いらい帝の牢愁のお
翳りはいとど濃い。 平家の頃にも、承久の乱にも、帝王の受難は、二、三にとどまら....