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薄靄
「薄靄〜」の文章内での使われ方:小説や文学作品の中から探す
薄靄の前後の文節・文章を表示しています。該当する15件の作品を表示しています。
検索対象[仮名遣い:新字新仮名]
「朱日記」より 著者:泉鏡花
蒼白い中に、松の樹はお前、大蟹が海松房を引被いて山へ這出た形に、しっとりと濡れて
薄靄が絡っている。遥かに下だが、私の町内と思うあたりを……場末で遅廻りの豆腐屋の....
「母子叙情」より 著者:岡本かの子
うがない。随いて行くまでだ」都会人に取って人混は運命のような支配力を持っていた。
薄靄を生海苔のように町の空に引き伸して高い星を明滅させている暖かい東南風が一吹き....
「蘆声」より 著者:幸田露伴
いたのであった。 心身|共に生気に充ちていたのであったから、毎日※の朝を、まだ
薄靄が村の田の面や畔の樹の梢を籠めているほどの夙さに起出て、そして九時か九時半か....
「愛と認識との出発」より 著者:倉田百三
。今日の日曜を野径に逍遙して春を探り歩きたり。藍色を漂わす大空にはまだ消えやらぬ
薄靄のちぎれちぎれにたなびきて、晴れやかなる朝の光はあらゆるものに流るるなり。操....
「薄紅梅」より 著者:泉鏡花
……年暮の稼ぎに、ここに働いている時も、昼すぎ三時頃――、ちょうど、小雨の晴れた
薄靄に包まれて、向う邸の紅い山茶花が覗かれる、銀杏の葉の真黄色なのが、ひらひらと....
「悪獣篇」より 著者:泉鏡花
切立ての巌の、渚で見たとは趣がまた違って、亀の背にでも乗りそうな、中ごろへ、早|
薄靄が掛った上から、白衣のが桃色の、水色のが白の手巾を、二人で、小さく振ったのを....
「土地」より 著者:豊島与志雄
つことをくよくよ考え込むもんじゃねえよ。」 彼等が家へ帰ってゆく頃には、夕暮の
薄靄が野の上を蔽うていた。村落のまわりには夕炊《ゆうげ》の煙がたなびいて、西の空....
「道連」より 著者:豊島与志雄
に大きな月が出て来た。溪流の音が深い谷間に響き渡っている。暗い木影から出る毎に、
薄靄の上に蒼白い月の光の流れてる谷間の景色が、眼の下にすぐ見渡される。そのあたり....
「ジャン・クリストフ」より 著者:豊島与志雄
宜に変形さしていった。 音楽がそういう奇跡を行なっていた。音楽はすべてのものを
薄靄《うすもや》の大気に包み込んで、すべてを美しく気高く快くなした。人の心に激し....
「ジャン・クリストフ」より 著者:豊島与志雄
から、彼らと同じように逃げ出してる太陽、それから、乳のような白い息吹《いぶ》きの
薄靄《うすもや》に包まれてそよいでる牧場、また、村の小さな鐘楼や、ちらちら見える....
「憑きもの」より 著者:豊島与志雄
底の赤熱の光りは淡くなり、ただいぶってるだけである。中天はもう青く冴え、東の空の
薄靄の中に、白い太陽が浮き出している。 岩かげの地面に腰を下して、私達は弁当を....
「土竜」より 著者:佐左木俊郎
ら梅三爺の顔を見た。 三 太陽はいつか西に傾いていた。この季節特有の
薄靄にかげろわれて、熟れたトマトのように赤かった。そして、彼方此方に散在する雑木....
「白花の朝顔」より 著者:泉鏡花
出て、裏紫の欄干に、すらりと立った、お絹の姿は―― この時、幹の黒い松の葉も、
薄靄に睫毛を描いた風情して、遠目の森、近い樹立、枝も葉も、桜のほかは、皆柳に見え....
「中世の文学伝統」より 著者:風巻景次郎
ている朧々たる月ほど、意欲が影をひそめた詠歎的な自然はない。秋の夕暮の水色に煙る
薄靄は、そのまま私たちをも彼らの仲間のひとりと化して、風もながれぬ自然のなかに凝....
「黒部川奥の山旅」より 著者:木暮理太郎
にも拘らず、少しも眠ることが出来なかった。 宵に上野を立った時は、十三夜の月が
薄靄の罩めた野面を隈なく照らして、様ざまの声をした虫の音が、明け放した窓からはや....